「蚊」って本当にうっとうしいですよね…。東南アジアのホテルに泊まると部屋の中に蚊がいて格闘したことはありませんか?
“なんか痒いなあ~”と思ったら案の定、蚊に刺されていた…。夜中に“ブ~ン”と耳もとをかすめて睡眠を妨げられる…。たった一匹でも部屋の中に蚊がいると退治するまで寝ることさえままなりません。
まあ、腫れや痒みだけなら我慢しますが、最悪の場合、蚊に刺されることによって感染症を患うことさえあります。
いわゆる、蚊媒介感染症のデング熱,ジカ熱,マラリヤ,ウェストナイル熱,チクングニア熱,黄熱,日本脳炎などです。
「デング熱」は熱帯地方特有の病気だと考えられていましたが、2014年に東京都渋谷区の代々木公園周辺で国内感染が確認されました。以来、日本でもよく知られるようになりましたね。
ところで、みなさんは東南アジアなどの熱帯地域を旅するときに「虫よけ対策」はしっかりしていますか?私は必要だとは知っているのですが、ついついおろそかにしてしまいます…。
今回は、夏が近づくと話題に上る「デング熱」の予防策について考えてみたいと思います。
Contents
デング熱とは
「デング熱」はデングウイルスに感染することによって発症する病気です。主な症状は、発熱,頭痛,筋肉痛,目の奥の痛み,発疹などでインフルエンザによく似ています。ただし、感染しても発症しないケースも多くあります。
また、デング熱がひどくなった「デング出血熱」や「デングショック症候群」になると適切な治療が行われない場合は死に至ることもあるほど。アジアでは子供の間で深刻な疾患と死亡の主な原因になっています。
現在、デング熱は世界的な流行の兆しを見せています。2016年のWHOレポートでは、全世界で年間約3.9億人がデング熱に感染し、128ヶ国の約39億人がデング熱感染の脅威にさらされていると推定しています。
なんとこれは、世界の2/3以上の国々、そして世界人口の半数以上に相当します。
- デング熱はデングウイルスに感染することでおこる蚊媒介感染症
- 症状は発熱,頭痛,筋肉痛,目の奥の痛み,発疹など
- デング熱が重くなるとデング出血熱やデングショック症候群になり命に関わることもある
デング熱の英語と発音
英語:Dengue fever(発音:déŋgi)
日本語表記だと「デンギ」のほうが英語発音に近いでしょうか。
潜伏期間
通常3~7 日(最大期間2~14 日)の潜伏期の後、急激な発熱で発症します。
症状
蚊に刺されて2~14日以内にインフルエンザにかかったような筋肉痛などを伴う急な発熱。発熱は2~7日間持続し、頭痛,筋肉痛,目の奥の痛み,発疹,倦怠感を伴います。
通常は体内からウイルスが消失する1週間程度で回復し、予後は概して良好な病気です。
デング出血熱とデングショック症候群
デングウイルスには4つの血清型(1,2,3,4型)のウイルスが存在します。一度感染した型は免疫を保持しますが、さらに別の型に感染した場合は重症化した「デング出血熱」,「デングショック症候群」になることがあります。
デング熱の検査と診断キット
デング熱は血液検査による病原体の検出、抗体検査などで判別されます。また、判定時間を大幅に短縮できるデング熱診断キットは、保険適用されるようになりました。
治療
デングウイルスに対する特有の治療薬はなく対症療法です。「デング出血熱」や「デングショック症候群」を発症した場合は、適切な治療がなされないと死亡することもあります。
予防接種はある?
日本国内で利用可能なワクチンはありません。ただし、流行地域の数か国では承認登録されています。
どこで?主な発生地域は?
デングウイルスに感染する危険がある主な地域は、東南アジア,南アジア,中南米,カリブ海諸国,アフリカなどの熱帯と亜熱帯地域。さらに中国南部,台湾,中東,オーストラリアなどでも発生しています。
都市部で流行することが特徴の一つで、日本でも2014年に首都圏で国内発生例が報告されました。
感染経路は?ヤブ蚊に注意
デング熱はデングウイルスを保有するヤブカ属のネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されることで感染します。
蚊はデング熱感染者を吸血するとデングウイルスをもつようになり、人がその蚊に刺されるとウイルスに感染する可能性があります。なお、人から人へ直接感染することはありません。
ネッタイシマカ(英語:Aedes aegypti)
「ネッタイシマカ」は熱帯,亜熱帯地域に分布している蚊で日本国内には定着していません。都市部の人家周辺に生息し、屋内外の花瓶や水槽,鉢植えの水受け,プラスチック容器,古タイヤ,空き缶などにたまった水で繁殖します。
日中に屋内で刺されることが多く、動作が素早く捕らえるが難しいのが特徴です。
ヒトスジシマカ(英語:Aedes albopictus,tiger mosquito,forest mosquito)
「ヒトスジシマカ」は東南アジア原産の蚊ですが、適応性が高く冬は卵の状態で越すことができることから世界の広範囲に分布しています。日本では沖縄県から東北地方まで、北海道を除く全国で広くみられます。
日本の代表的なヤブカの一種で、胸背の中央にある白のひと筋が特徴です。また、脚や胴の白と黒のストライプ模様から「タイガーモスキート(tiger mosquito)」とも呼ばれています。
蚊の活動がもっとも盛んになる気温は25~30℃、日本での活動時期は5月中旬~10月下旬です。
人を吸血するのは雌だけで主に屋外の木陰,やぶ,庭,公園,墓地などに潜んで人を刺します。朝方から夕方まで吸血し、ピーク時間は早朝と夕方の日没前後。なお、雌の蚊の寿命は30~40日です。
日本のデング熱流行
第二次世界大戦中の流行
第二次世界大戦中の1942年から1945年にかけて神戸,大阪,広島,呉,佐世保,長崎などで約20万人が感染するデング熱の流行がありました。
2014年には東京都代々木公園周辺で流行
2014年に東京都代々木公園周辺などで162名がデング熱に感染したことは記憶に新しいですね。患者が感染したと考えられた公園や隣接する施設では、注意喚起,立ち入り制限が行われ、蚊の調査,駆除が大規模に行われました。
デング熱を予防する方法 蚊に刺されないために
海外に渡航し帰国してからデング熱を発症する輸入症例は、毎年約200名報告されています。2016年にはフィリピンでデング熱に感染した30代女性が、帰国後にデング出血熱で亡くなられています。
推定感染地は広範囲にわたりますが、とりわけインドネシア,フィリピン,タイ,インド,マレーシア,ベトナムなど東南アジアと南アジアが大多数を占めています。
現時点では、残念ながらデングウイルスを標的とした治療法はなく、予防接種に使用するワクチンも一部の国で承認されているものの日本では利用できません。
では、どのようにしてデング熱の感染から身を守ればよいのでしょうか?
唯一の予防策は、蚊に刺されない対策をすること。具体的には
- デング熱の流行地に行かない
- 蚊の多い場所に行かない
- 蚊のいない管理の行き届いた清潔なホテルを選ぶ
- 肌の露出が少ない服を着る
- 虫よけ剤をつかう
などです。
滞在先、旅行先のデング熱流行情報をチェック
デング熱はインフルエンザやその他感染症同様に、流行している地域と時期があります。渡航前には旅行先のデング熱最新情報を確認することをおすすめします。
蚊の多い場所に近づかない
やぶや茂み,木陰には蚊が待ち受けています。近づく時は、虫除け剤の使用など対策をしましょう。
ホテルは清潔に管理されていますか?
滞在先では清潔で管理の行き届いたホテルを選ぶことも重要です。東南アジアでデング熱を媒介するネッタイシマカは、屋内で刺されることが多く、屋内の水はけの悪い洗面所やトイレのタンクなどでもボウフラは繁殖します。チェックインしたら部屋の中に蚊がいた…なんてこともありますよね。
多くのホテルには「電気蚊取りマット」などの殺虫剤が置いてあるので、夜間だけでなく昼間から使用することをおすすめします。
秘境のビーチなどでエアコンの完備していないバンガローなど簡易なホテルに泊まる場合は、蚊帳があれば蚊に刺される心配をしないで夜が過ごせますね。
長袖と長ズボンの着用
蚊に刺されないための基本は、肌の露出をなくし刺される可能性のある面積を少なくすることです。襟付きの長袖や長ズボンの着用、サンダル履きを避けて靴下と靴を履くことでリスクを回避できます。
ゆったりとした厚手の服装
ぴったりした薄手の繊維は服の上からでも蚊に刺されることがあります。ゆったりとした服装がおすすめです。
濃い色の服は避ける
蚊は黒や紺などの濃い色の服に寄ってきます。白やパステルなど色の薄い服を選びましょう。
外出時には虫除け剤の使用を
外出の際は、虫除け剤(忌避剤)を使うことが重要です。「ディート」,「イカリジン」,「ユーカリ油(レモンユーカリ油)」は、アメリカ合衆国疾病管理予防センター(感染症対策の総合研究所)によって有効性が証明された虫よけ成分です。これらの成分が含まれている虫除け剤がおすすめです。
なお、2016年からは日本でも虫よけ効果が長く持続する高濃度の「ディート」,「イカリジン」を含んだ製品が発売されるようになりました。
ディート(DEET)
「ディート」は1946年にアメリカで開発された、一般によく配合されている虫よけ有効成分です。以前の国内製品はディート濃度が12%以下でしたが、2016年からは濃度30%以下のものが販売されるようになりました。
イカリジンよりも忌避できる害虫の種類が多いですが、皮膚への刺激があり年齢によって使用制限があります。
ディートの濃度 | 効能持続時間 |
---|---|
5% | 約90分 |
10% | 約2時間 |
30% | 約5~8時間 |
イカリジン
「イカリジン」は1986年にドイツのバイエル社が開発した忌避剤です。イカリジンも2016年に5%以下から15%まで濃度を高めた製品の販売が開始されました。
イカリジンは、ディートに比べて低刺激で肌に優しいことが特徴です。年齢による使用制限もありません。
天然植物系
「ユーカリ油(レモンユーカリ油)」もアメリカ合衆国疾病管理予防センター(CDC)が推奨している蚊よけ剤です。また、「ハッカ油」,「シトロネラ」,「レモングラス」,「ヒノキ油」も蚊が嫌がって近寄らなくなるといわれます。
携帯,アウトドア用殺虫剤
日本では時計のように手首に巻いたり、持ち運びが可能な携帯用の殺虫剤も販売されていますね。
蚊を発生を防ぐには?
蚊の発生を防ぐには、ボウフラ対策が必要です。
植木鉢の水受け,プラスチック容器,古タイヤ,空き缶,バケツ,じょうろなどの残り水や水たまりをなくす工夫をし、こまめに清掃することで蚊の発生を防ぐことができます。茂みをなくし風通しをよくすることで蚊の生息場所をなくすことも必要です。
最後に
海外から帰国時に発熱などで体調を崩したり不安がある場合は、億劫がらずに入国審査前の検疫所に相談しましょう。
また、デング熱は潜伏期間があります。帰国後に体調を崩した場合は、早めに近くの医療機関で受診することが求められます。
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